企業が事業を継続していくためには、思いがけないトラブルが発生した際でも適切な対応が取れるように対策を取っておくことが重要です。
たとえば、災害などの不測の事態に備える手段として、BCP(事業継続計画)の策定を検討するのがおすすめです。
ただし「策定のポイントや注意点がわからない」という方もいるはずです。そこで、BCPの策定ステップや策定時のポイントなどを解説します。
この記事を読むことによって他企業のBCP策定状況や、BCPに取り組むことの重要性もわかるようになるので、ぜひご覧ください。
無料で資料請求 →どの程度の企業がBCPの策定を済ませているのでしょうか。内閣府の発表によると「策定済みである」と答えた企業の割合は以下のとおりです。
年度 | 大企業 | 中堅企業 |
---|---|---|
平成27年 | 60.4% | 29.9% |
平成29年 | 64.0% | 31.8% |
令和元年 | 68.4% | 34.4% |
令和3年 | 70.8% | 40.2% |
令和5年 | 76.4% | 45.5% |
策定率は大企業の方が高い結果となりました。また「策定中である」と答えた割合も含めた場合、大企業は令和5年度時点で86%ほどがBCP対策を取っていることになります。
一方で、中堅企業を見てみると、令和5年度時点で「策定済み」「策定中」を合わせても58%、「策定の予定はない」「BCPを知らない」を合わせると17%となります。
まだまだBCPが十分に認知されているとは言えません。
参考:(PDF)内閣府:令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査[PDF]
特に中堅企業の中にはまだBCP策定を行っていないところも少なくありません。大企業であっても策定の予定はない、BCPを知らなかったと答えている企業もあります。
ですが、BCPは予測できない災害に見舞われてしまった際に、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための⽅針です。
これは、企業の存続にも関わる重要なポイントです。実際にBCP対策が不十分だったために予期せぬ事態に対応できず、倒産するしか道がなかった企業も少なくありません。
こういった事態に陥ってしまうことを避けるためにもBCPは非常に重要なものです。BCP策定に取り組んでいきましょう。
関連記事:BCP(事業継続計画)とは?取り入れるメリットと確認すべき注意点
BCPを策定する大きな目的は、何か予測できないような緊急事態が起こってしまった場合でも、事業を継続して会社を守っていくことにあります。そのために必要なものが守れるようにBCPを策定していかなければなりません。
事業を継続させるために必要になるものといえば、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源です。
何よりも従業員を守ることを重視しましょう。従業員に大きな被害が出てしまった場合、復旧のための対策も取れないことになります。
また、新規に従業員を採用するとなればお金もかかります。まずは従業員の安否確認の仕組みを整えておかなければなりません。その上でその後の復旧について検討していく形になります。
実際にBCPを策定していこうと考えた際、どのような形で進めていけば良いのでしょうか。
ここでは、策定のステップについて解説します。BCPを策定してもいざ本番で役に立たなかったとなると大変なので、一つひとつ丁寧に取り組んでいくことが重要です。
まずは基本方針の決定から始めましょう。何の目的でBCPを策定するのか、企業としてどういったことを第一に守りたいと考えているのかを明確にする必要があります。
この際、自社の経営理念を確認してみると、何を重視しなければならないかが見えてくるはずです。企業として大切にしていることや掲げている目標はBCPを策定する際にも重視すべきことであるはずなので、経営理念を振り返ることをおすすめします。
全体の方針を決定せずにBCPを策定してしまうと、本当に力を入れなければならない部分が抜けていたり、不足していたりすることも珍しくありません。第一に考えるべきなのは事業継続ではありますが、経営方針と照らし合わせて考えましょう。
実際に災害が発生した際にどのような対応が求められるか考えるためには、災害被害を想定しておくことが重要です。内閣府では、災害ごとに想定される被害を公表しています。
これらの情報やハザードマップなども確認しながら、拠点がある地域で発生する可能性のある災害を確認しておきましょう。
また、災害被害は軽微、甚大、壊滅などの段階を付けて想定しておくことで、各被害規模に合った対策を検討しやすくなります。
BCPの運用体制を整備していきます。一般的にBCP発動時に重要な部分を判断するのは、経営層の役割です。そのため、BCPの運用体制について計画する際は、率先して経営層に加わってもらう必要があります。
本格的にBCP策定を行っていくにあたり、担当者を決めておくことも重要です。BCPを取りまとめる部署やチームも作りましょう。複数の部署がある場合は、偏りが出ないように全部署からメンバーを集めることをおすすめします。
ただ、どういった形で担当者を集めるかは会社の規模によっても変わるはずです
たとえば、中小企業の場合はそれほど多くのリソースを必要としません。自社に合った形で運用体制を整えていきましょう。
現在行っている事業のうち、停止した場合にどこが最も問題となるのか考えます。BCPでは「中核事業」と呼ばれるものです。
中核事業の選定基準は企業によって異なりますが、一般的には、最も売り上げがある事業や納期の遅延による影響が大きい事業、自社の信頼を維持するために停止させるわけにはいかない事業などが挙げられます。
また、復旧が遅くなってしまった場合に、事業に与える影響が大きい事業についても、復旧の優先度を高めに設定しておくと良いでしょう。
リスクの洗い出しでは、具体的にどういったことが起こると企業にとって大きなダメージにつながってしまうのかを考えます。考えられるリスクは小さなものも書き出しておきましょう。
無料で資料請求 →洗い出したリスクに優先順位をつけていきます。
災害時に想定されるリスクには実にさまざまなものがありますが、それらに対し、一斉に復旧作業を行うことはできません。
そのため、あらかじめ優先順位をつけておき、いち早く復旧に取り組むべきリスクを明確な形にしておきます。
リスクに対して優先順位をつける際は、どの程度の発生頻度が考えられるのか検討しておきましょう。月に一度なのか、数年に一度なのかによってもリスクの大きさは変わってきます。
また、そのリスクが発生した場合にどの程度の損失が発生するのかを明らかにしておくと、復旧のために優先させるべき順位も見えてくるでしょう。
ステップの最終段階では、具体的なBCPを策定していきます。
優先順位の高い事業を停止させることなく継続していくために必要な戦略を考え、それを実現するための対策を検討しなければなりません。
業務拠点の被害を抑えたり軽減したりするために必要な対策や、調達・供給に関すること、重要業務を継続するのに必要な要員確保に関することなども含めた総合的な検討が求められます。単純に事業の継続だけを考えるのではなく、自社の経営理念と関連連関の取れた戦略・対策を検討していきましょう。
実際に緊急事態が起こった際に、どのような流れで対策を進めていくのか決めておきます。
ポイントは、最初に行う初動対応、被害状況に応じた緊急対応、復旧対応の3つです。
また、BCPは経営層の人間が指示を出すことになるので、誰がリーダーとなって指示を出すのかも決めておかなければなりません。その人物が不在のときに緊急事態が起こることも想定し、代理でリーダーを務める人物も決めておきましょう。
対策の流れについては、できるだけ具体的な内容を策定しておくことが重要です。特に大きな災害が起こった際などは慌てたりパニックになったりすることもあるので、マニュアルを作って実践すべきことをまとめておきましょう。
復旧にかかる費用がどのくらいかについても事前に考えておいた方が良いでしょう。想定されるリスクごとに、具体的な金額を確認しておきます。
予定通りに復旧できるとは限らないので、復旧にかかる日数が伸びてしまった場合にかかる費用も予測しておくと良いでしょう。
具体的な金額が明確になった段階で、自社の資金のみで対応可能かを検討します。もし、自社の資金で対応するのが難しい場合は、資金調達の方法や金額についても、事前に具体的に検討しておく必要があります。
実際の調達先を計画しておくことにより、災害が起こった際に迅速に対応できるようになります。そのためには平常時から調達先と連携を取っておくことが欠かせません。
実際に非常事態が起こった際に策定しておいたBCPのとおり行動するためには、平時からの教育・訓練が欠かせません。従業員はもちろんのこと、経営者や役員も含めた教育・訓練が求められます。
講義や対応の内容確認・習得のほか、意思決定などに関する教育や訓練を実施しましょう。また、実際に体を動かす訓練を行うことによって、より具体的に非常時に取るべき行動などを理解できます。
年次などの定期的なタイミングや、体制変更、人事異動、採用などによって要員に大幅な変更があったときなどに教育・訓練が必要です。
策定したBCPは、定期的にブラッシュアップしていくことが重要です。BCPを策定してそれで終わりの状態になってしまうと内容が古くなり、実際にBCPを発動する事態に陥ったときに役立たない可能性があります。
ブラッシュアップをするためには、緊急事態を仮定した訓練を行うと良いでしょう。訓練を行う中でうまく立ち回れない部分や、対策が不足している部分が見えてくることもあります。
その結果をもとにしてPDCAサイクルを回し、自社のBCP対策をより強固なものにしていきましょう。
訓練の結果BCPの内容に問題がないことがわかった場合も、定期的な見直しが必要です。事業形態を変更したときや、自然災害が増えたときなども内容を見直しましょう。
実際にBCPを策定する際には、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
特に重要なのは、発動基準を明確にしておくこと、発動時の社内体制を整備しておくこと、BCPに関する情報を整理しておくことの3つです。それぞれ解説します。
BCPは非常事態が発生した際に発動し、あらかじめ定めた手順に従って対応を進めていく仕組みです。
ただ、実際に災害が起こった際、どの程度のレベルでBCPを発動するのかが明確になっていないと迅速に動けません。発動の基準については、従業員全体で理解を深めておきましょう。
たとえば、あらかじめ発動の条件を「震度6以上の地震」と定めておけば、地震が起こった際にBCPが発動される場面か否かを従業員一人ひとりが判断できるようになります。
大規模な災害発生時はすぐに指示を受けることが難しくなるので、それぞれが今行うべきことを判断しなければなりません。そのためにもBCPの発動基準を明確にしておくことが重要です。
BCP発動時の社内体制をあらかじめ整理しておきましょう。チームで協力しながら取り組んでいく必要があるので、役割に応じてチームを作っていきます。
たとえば、資源の調達や建物の修理を行う復旧対応チームです。臨機応変な対応を得意としているメンバーを集めましょう。
同時に外部対応も行っていかなければなりません。場合によっては納期を伸ばしてもらわなければならないこともあるでしょう。
それから、復旧にはコストもかかるので、財務管理チームも必要です。現在の状況をいち早く把握し、どういった復旧が必要か考えていくことになります。
この他にも後方支援にも十分な人員を充てなければなりません。事前に整理しておきましょう。
BCP策定後は、関連情報を分かりやすく整理することで、有事への備えが可能となります。
災害発生時は迅速に従業員の安否確認を行わなければならないので、どういった通信手段で連絡を取るか明確にしておきましょう。災害時は通信手段が限られてしまうことも含めて検討が必要です。
他にも、顧客情報をバックアップしている場所や、災害で資源が失われてしまった場合の代替手段なども考えておかなければなりません。
災害時は人員や設備が不足することも考えられるので、これらの代替に関する仕組みもあらかじめ構築しておくことが大切になります。
必要な情報はすぐに確認できるように項目ごとに整理しておきましょう。
BCPは何か災害が発生した際の被害をできるだけ抑えることに加え、早期復旧を目指すためのものです。ここでは、早期復旧を進めていくにあたり、注目したいポイントを解説していきます。
早期復旧のためには、人的リソースが欠かせません。仮に施設や設備に大きな被害がなかったり、早期に復旧させられたとしても、人的リソースが不足していたりする場合は復旧が困難になってしまうでしょう。
災害時は一人ひとりの安全を確保しなければならないため、まずは迅速に従業員の被害状況を確認できるように体制を整えておくことが重要です。
どのような方法で安否確認を行うのかも明確に定めておきましょう。
また、被害状況によっては少人数でのオペレーションを検討しなければならないこともあります。
災害の影響によって出社が難しくなる従業員が出る可能性も高いため、出社できない従業員に対する対応なども検討しておきましょう。
施設や設備に関することの中でも、特に本社機能を支える部分の被害が大きくなると、早期復旧が難しくなります。まずは、想定される災害に対して十分な備えをしておきましょう。
たとえば、地震の揺れによって設備が倒れ、故障してしまうことがあります。こういったトラブルを防ぐためには、万が一に備えてしっかりと設備を固定しておくことが重要です。
ただ、想定が難しい災害もありますし、備えていたつもりでも不十分なケースも出てくるでしょう。このような場合は代替できる手段を考えておくことで早期復旧につなげやすくなります。
BCPを発動しなければならないほどの災害が起こった場合、基本的に指示を出すのは経営層です。ただ、経営層がすべての部署に対して細かい指示を出すのは現実的な話ではありません。
そのため、誰が誰に対して指示を出すのか、どの現場の指揮監督を誰が担当するのかといったことも決めておきましょう。
災害は実際に起こってからでなければ具体的な被害や必要となる対応が見えてこない部分もあります。事前に備えておいても予定していた通りに進められないこともあるはずです。
そのため、二重三重のバックアップ体制を事前に構築しておくことが求められます。BCP発動時に適切に動ける体制を整えておくことが早期復旧実現のために重要なポイントです。
大規模な災害が発生すると、事業が中断してしまうことがあります。一時的にでも事業が継続できなくなれば、平常時と比べて損害が発生するのは防げません。
災害の内容によっては壊れた施設や設備が故障し、これらを修理するための費用もかかります。
資金について検討する際は、災害によって発生する可能性のある損害額だけではなく、復旧のためにどの程度のコストが必要になるのかも明確にしておきましょう。
また、災害の内容によっては保険による損害補償の対象となったり、公的融資制度が利用できたりすることもあります。これらの制度でどの程度の金額をまかなえるのかも確認しておきましょう。
今は多くの企業でインターネットを活用した業務を行っており、重要なデータはパソコンやサーバー、クラウドなどに保存されています。どのような方法でデータを保存するかは企業によって異なりますが、業務上必要となるデータは災害が発生した際でも失われないような仕組みを構築しておくことが重要です。
定期的に自動で重要なデータをバックアップできる仕組みにしておくと良いでしょう。
また、災害は非常に広い範囲で起こることもあるため、広域災害に備えてデータを分散する形で管理することも求められます。
本社内のみに必要なデータが集中していると大規模な災害が起こった際に危険なので、クラウドサーバーを活用することも重要です。
いかがだったでしょうか。企業がBCPを策定しようと考えた際に押さえておきたいポイントを解説しました。なぜBCPが必要なのか、どういったことに注目すれば良いかもご理解いただけたかと思います。
企業によってリスクや事業内容は異なるので、自社に合った内容を策定していきましょう。
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