さまざまな企業において、万が一の災害が発生した場合でも事業を継続するために必要な計画であるBCP(事業継続計画)の策定が求められています。しかし「そもそもBCPは誰が作るべき?」といった疑問を抱えている方もいるでしょう。
ここでは、誰が適任かわからず悩んでいる方のために、BCPを策定する担当者のスキルや選定基準などについて解説します。この記事を読むことで担当者に求められるスキルや策定の流れを把握するための参考資料として活用してください。
無料で資料請求 →大規模な災害が発生した際などに発動されることになるBCPは、誰が作るべきなのでしょうか。企業によって考え方は異なりますが、基本的にはBCP発動時に現場の指揮を執る責任者が策定を主導する体制が望まれます。
これはBCPを発動しなければならないような場面では迅速な判断が求められるため、対応を指揮する責任者がBCPについて深く理解しておく必要があるためです。
他の担当者が策定していたBCP対策では、内容を把握していない場合に災害発生時の初動対応が遅れる可能性があります。緊急時に指揮をとる人物ということもあり、所長や事業部長などが多くの企業で選ばれているようです。
BCP担当者は、責任を持って企業のBCPを策定・管理していく立場になります。担当者に求められる主なスキルは、以下の通りです。
BCP担当者がBCP発動時に指揮をとることを考えると、リーダーシップが求められます。実際にBCPを発動した後のリーダーシップだけではなく、従業員に対してBCPの重要性を理解させ、必要に応じて危機管理チームを構成する際のリーダーシップも重要です。
BCP対策に主体的に取り組む姿勢が求められます。従業員それぞれが行うべき対策などを理解してもらう必要もあるので、それを伝えるためのコミュニケーションスキルも必須です。
BCP担当者になった場合は、どのような仕事を担当することになるのでしょうか。重要な仕事は自社のBCPの把握と平時の活動の整理、危機発生時への備えの3点ですので、それぞれ解説します。
まずは自社にとってBCPと呼べる計画が存在しているのかを確認しておきましょう。企業によっては危機管理規程や消防計画などはあるものの、事業継続計画であるBCPは策定されていない場合もあります。
注意点として、防災対策とBCPは異なります。防災対策は、主に自然災害が発生した際に自社の人命や財物を守るための対策です。
一方で、BCPは災害を含む非常事態を想定し、事業の継続を図るための対策と位置づけられます。
自社にとって重要性の高い業務を明確にしておき、どれを優先的に復旧すべきかを考えていきましょう。
BCPについて確認したら、次は実際に災害が起こった際にBCPが機能するように平時の活動を整理していきます。計画を立てるだけでは実行が難しいため、BCPに基づく訓練を実施していきましょう。
BCPに基づく訓練を定期的に行うことが重要です。定期的にBCP対策訓練を実施することで一人ひとりの従業員が災害時に行うべき行動を理解し、迅速な判断・行動につなげられます。
実際に訓練を行ってみると対策が不足しているポイントもわかるようになり、改善点の把握にもつながるため、訓練は継続的に実施する必要があります。定期的に大規模災害を想定し、状況に応じた対策を検討しておく必要があります。
いつ災害が発生しても対応できるように、常に備えておくこともBCP担当者の大切な仕事です。災害が発生したら、まずは従業員の安全確認を行わなければなりません。安否確認がうまく行えないと、危機対応や復旧業務にあたれる人数が把握できないためです。
また、同時に被害情報の収集も求められます。収集した被害情報は従業員で共有していく必要があるので、共有方法についても確認しておきましょう。また、収集した情報を基に、対策本部を設置し判断の中心機能とします。
対策本部の立ち上げ方についても、事前にBCP対策として定めておきましょう。担当者は、平常時からBCP発動時の手順を確認しておく必要があります。
BCPの策定に際し、担当者を一人に限定する体制には利点と課題が伴います。
まず、メリットとして挙げられるのが、担当者が一人であれば柔軟さとスピード感を出してBCPを策定できる点です。
また一般的にBCP策定の担当者となるのは内部事情を把握している人物であるため、業務内容に即した計画を策定できる点も利点に挙げられます。
一方で一人の担当者だけだと、専門的な知識が不足してしまう点や見落としが発生しやすいて点などのデメリットがあります。リスク評価が主観的になるのも好ましくありません。担当者を中心としつつ、周囲の協力を得ながら策定を進める体制が望まれます。
BCPは、どのような手順で策定すべきでしょうか。ここでは、作成方法について押さえておきたいポイントを7つ解説します。
関連記事:BCP(事業継続計画)策定のステップと押さえておきたいポイント
まずは、BCP対策のプロジェクトチームを結成することが求められます。基本的には、BCP発動時に現場の指揮をとる人がBCP策定の担当者に適任です。
しかし単独で対応するには限界があるため、BCP発動時に現場の指揮をとる人が中心となってプロジェクトチームを作り、取り組んでいきましょう。
大企業の場合はBCP発動時に各部署に与える影響が大きいため、特定の部署だけではなく、財務部門や情報システム部門など管理部門も含めた各部署から人員を選出して横断的な体制を構築しておくことが重要です。取りまとめは総務部が担うことが多いですが、具体的な体制は企業の方針や組織構造により異なります。
事業の継続に関わる事項を計画書にするBCPは、経営戦略部門や秘書室など事業継続に関わる経営方針が反映されやすい部署がとりまとめにあたる例もあります。
どのような方針でBCPを策定していくのかを明確にしておきます。BCPの大きな目的は、予測できないような災害が起こってしまった場合でも被害を最小限に食い止め、事業を停止せずに継続していくことです。
したがって事業の継続が、BCP策定の基本方針になります。たとえば自社の業務が停止してしまうと顧客に与える影響が非常に大きいメーカーの場合は、「災害時であっても顧客への供給責任を果たすこと」がBCP策定の基本方針です。
基本方針の設定に迷う場合は、自社の経営方針を基に検討することが有効です。基本方針を明確にすることで、必要なBCP対策の方向性が明らかになります。
事前に明確にしておいた基本方針に基づいて、優先すべき業務や対応を明確にしておきます。発生した災害の規模によっては全ての事業を継続するのは難しく、一部の業務に人員などを集中させなければならないことがあるからです。
こういった場合に備えて優先事項を決めておくことが重要です。
例えば顧客への商品供給の責任を果たすことを基本方針としているのであれば、生産ラインを止めないことが優先事項に該当します。
また停止した場合に売り上げが大きく落ちる事業や長期にわたって停止した場合に復旧が難しくなる事業に関しても、優先事項として位置づける必要があります。
災害発生時に求められる対策を検討するため、リスクの洗い出しを行います。具体的なリスクについて検討することが重要です。
リスクについては、外的リスクと内的リスクに分けて考えましょう。たとえば、外的リスクの中でも代表的なのが、自然災害や感染症、サイバー攻撃などです。内的リスクとしては、コンプライアンス違反や個人情報の流出などが挙げられます。
想定されるリスクを洗い出したら、リスクの高い順番に対策する際の優先順位を付けておきましょう。あらかじめ優先順位を設定しておくことで、災害時に複数の問題が発生した際に、どの問題から対応すべきか判断しやすくなります。
無料で資料請求 →続いて、災害時や復旧のタイミングで行うべき対策を決めていきます。この時に重要なのが、実行可能な計画を立案することです。
たとえば、本来であればシステムの復旧に5日かかるところを「1日で復旧させる」と決めてしまうと、その後の予定が大きく狂うことになります。したがって想定されるリスクの対策に、どの程度の時間やコストがかかるのかを明確にしておかなければなりません。
たとえば大規模な自然災害が発生した場合は、従業員がケガをしたり、出社できなくなったりするリスクがあります。人的リソースが不足するリスクを考慮したうえで実現可能な具体策を検討し、あらかじめ定めておきましょう。
BCP対策の作成が完了したら、従業員全体に周知していきます。計画を立てておくだけでは、実際にBCPを発動した際にその通りに動けるかわかりません。そこで日頃から訓練を行っておくことが大切です。想定されるリスクに応じた訓練を事前に行うことで、実際に発生した際にも迅速に対応しやすくなります。
また、BCPを発動する条件を従業員全体が理解しておくことも大切です。災害が起こったあとは現場が混乱しやすくなりますが、たとえばあらかじめBCP発動条件として「基幹システムが故障した場合」と定めておけば、それが起こった際に各従業員が訓練内容に基づいて適切に行動できるようになります。
策定したBCP対策は、訓練を行いながら定期的に検証を続けていきましょう。検証することで、策定した対応内容が実際に機能するかどうかを検証できます。
たとえば、BCPで策定しておいた方法では従業員全員の安否確認をするまでに想定していた以上の時間がかかるようなケースもあるでしょう。こういった場合は、かかる時間の見直しや、安否確認方法の変更が求められます。
必要に応じて外部評価を取り入れ、BCPを継続的に更新していくことが求められます。
BCP対策を策定する際に参考となるマニュアル・ガイドラインがいくつか存在します。ここでは、おすすめのマニュアル情報を3つ紹介します。
中小企業庁は、日本国内の中小企業の育成および発展を支援する行政機関です。中小企業へのBCPの普及促進を目的として「中小企業BCP策定運用指針」を定めています。
中小企業BCP策定運用指針では、中小企業の特性や実状に基づく形でBCPの策定方法や継続的な運用の具体的方法について確認できます。入門コース、基本コース、中級コース、上級コースの4つが用意されています。
入門コースには最低限必要な要素がまとめられているので、こちらから確認すると良いでしょう。また、上級コースには策定したBCPを運用してステップアップするために必要な知識などが詰め込まれています。各コースの内容を確認し、活用を検討することが推奨されます。
経済産業省による「事業継続計画策定ガイドライン」では、BCPに関する基本的な考え方から学べます。また、組織体制をどのように整えておけば良いのか、具体的に訓練はどういった形で行えば良いのかなどもまとまっているので、参考資料として活用できます。
近年は多くの企業でインターネットを通した業務を行うところが増えてきました。事業継続計画策定ガイドラインにはシステム障害やサイバー攻撃といったものが発生してしまった場合の対策についても記載されています。
BCP対策を強化していきたいと考えている方にとって役立つ情報が掲載されているので、ぜひチェックしてみてください。
参照元:【PDF】企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会「報告書 参考資料 事業継続計画策定ガイドライン」
内閣府の「事業継続ガイドライン」は、内閣府の防災担当によって作成されているマニュアルです。たびたび改訂されているので、最新版をチェックしましょう。
BCPの重要性に関することやこれから策定するにあたりどのような手順で進めれば良いかなどが細かく説明されています。計画の策定に関しては、計画の立案・策定に関することから事前対策の実施計画、教育・訓練の実施計画、見直し・改善の実施計画などまで総合的に掲載されているので、理解しやすい構成となっています。
こちらのガイドラインの対象となっているのは、民間企業です。企業や組織の業種・業態・規模を問わず、幅広く適用されます。
参照元:【PDF】内閣府「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(令和5年3月)」
BCP対策を実行するにあたり、確認すべき要点がいくつか存在します。ここでは、特に注目したいポイントを4つ解説するので、ぜひご確認ください。
BCP対策は自社のみで完結するものではなく、関連企業との連携も不可欠です。
取引先の企業など、自社関連企業がどういった対策をとっているのかも重要になってきます。自社で対策をとっていたとしても取引先が全く対応していないようでは、取引先の影響により、事業の継続が困難になるおそれもあるでしょう。
特に、継続しなければならない中核事業に関連している企業が取っているBCP対策はよく確認が必要です。
仮に全くBCP対策をとっていない場合は取引先の見直しを検討することも一案です。または、取引先が十分なBCP対策をとっていなかったとしても事業を継続していけるようにさらなる備えをしておくことについても検討しておきましょう。
一度の取り組みでBCP対策を完璧なものにするのはなかなか難しいことです。そのため、まとめて問題を解決しようとするのではなく、実行可能な範囲から対策を段階的に進めることが重要です。
たとえば、緊急事態に備えるためのプランを立案する場合、災害の種類によって作成すべきプランが異なります。同時にプランを作成していくのは非現実的なので、発生リスクの高い災害から対応するプランの作成を進めていくと良いでしょう。
また、データのバックアップを定期的に行う設定にするなど、比較的実施しやすいものもあるので、実施しやすい対策から順に取り組むことが推奨されます。
一つひとつ対応していくことで将来的には全体的なBCP対策につながります。
自社でBCP対策をとっていくのが難しいと感じているのであれば、BCP対策の専門家への相談も選択肢の一つです。専門家は、BCP対策の効率的かつ効果的な策定を支援できます。
自社で一からBCPについて学んで取り組んでいく場合は、効率が悪かったり、的外れな対策を始めてしまったりすることもあるでしょう。専門家に相談することにより、このようなミスを防ぎやすくなります。
対応しておくべきBCP対策は企業によっても変わってくるので、自社にはどのような対策が適しているかアドバイスをもらいましょう。中小機構の地域本部や自治体の役所で専門的な相談が可能であり、原則費用はかかりません。
実施するBCP対策の内容によっては、補助金や助成金の支給対象となる場合があります。これは国がBCPの導入を推奨しているためと考えられます。
たとえば、中小企業や個人事業主、小規模企業を対象とした「BCP実践促進助成金」では、条件に該当すれば上限額1,500万円の助成金を受給することが可能です。
中には自治体が独自に行っている補助金や助成金もあるので、利用可能な制度について、あらかじめ確認しておくことがよいでしょう。各補助金・助成金によって利用の条件が異なります。
また、募集数がそれほど多くないものもあるので、利用を検討している場合は受付期間を確認し、受付期間内に余裕を持って申し込みを完了させることが重要です。必要書類の確認も必須になります。
BCPは誰が作るべきなのかについて解説しました。担当者選びの判断になったのではないでしょうか。策定に関するポイントも紹介したので、ぜひ役立ててみてください。
BCP対策の第一歩として、多くの企業では備蓄品の管理に悩みを抱えてしまうようです。たとえば食料を備蓄していたとしても、いざという時に賞味期限が切れていれば食べられません。
株式会社丸和運輸機関では備蓄品の管理に関する「防災備蓄ワンストップサービス」を提供しています。定期的な買い替えや賞味期限の管理、保管などを総合的にお任せいただけるので、ぜひご相談ください。