企業防災とは、災害が発生する前に企業が取り組むべき対策や、災害が発生した際の被害軽減、復旧・復興などに地域の一員として貢献することです。企業は、従業員の安全、お客様の安全確保を第一に防災活動に取り組む必要があります。
この記事では企業防災とBCPの違いや、企業防災に取り組むメリットを解説します。「企業防災に取り組んでみたい」という方のために企業防災の取り組みチェックリストや企業防災最新の事例7選もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
企業防災とは、企業における防災の取り組み(事前の備え)のことです。企業の事業活動は、ヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源に支えられています。
しかし、これまで発生した大規模災害では、多くの企業がヒト、モノ、カネ、情報などの経営資源に何らかの制約を受けてきました。
企業防災は、災害発生時に経営資源を守り、事業活動を継続・復旧させることを目的とした事前の災害対策のことを言います。
企業防災が「災害発生前の被害軽減・影響回避」など、発災前の備えと発災時の対応の備えを指すことに対して、BCP(事業継続計画)で重視されるのはBC(事業継続)であり、「発災後の事業復旧」です。
BCPの中には、事業継続に必要な事前の対応や発災時の初期対応、つまり「企業防災」についての計画も記載しますが、発災後の事業復旧に関する経営戦略に関しても検討し計画書とするのがBCPです。
メリットは災害による被害軽減と事業継続の、主に2つあります。
【被害軽減】災害が発生する前に事前対策することで、被害を軽減できる。
【事業継続】災害発生時に事業が中断する時間をより短くし、早く事業活動を継続・復旧させることで災害による業績低下の影響をより少なくすることができる。
それだけでなく、災害によって発生した新たな需要や市場開拓により、災害発生前よりも顧客の信頼を得て事業を拡大することができるチャンスがある。
内閣府では、国内の各企業が事業継続や防災に係る取り組みの実態や、事業継続計画の策定状況について実態を把握し、BCP策定を促進する方策等を検討するための基礎資料を得ることを目的として2年に1回の頻度でアンケート調査を行っています。
参考:企業防災のページ(内閣府防災担当) : 防災情報のページ – 内閣府
令和6年3月最新の調査結果をもとに、企業防災で取り組みたいことベスト3をご紹介します。
企業防災の取り組みとして多くの企業でまず取り掛かるのが、防災備蓄品(水、食料、災害用品)の購入や買い増しです。
防災備蓄品をこれから準備するという企業は、どんな備蓄品をいくつ、どこに保管するのかの検討から始まります。
既に防災備蓄品を購入している企業は、自社のどこに、どんな備蓄品がいくつ保管してあるのか、賞味期限や使用期限が切れていないかの現状把握、棚卸からスタートし、その後、防災備蓄品の購入・買い増しを検討します。
防災備蓄品の購入や買い増しについて近年注目されているのが、「賞味期限切れ食料の寄付対応」です。多くの自治体や企業が、防災備蓄品として備えている食料の賞味期限前に、こども食堂への寄付や再販事業者への買取依頼を行い、使用しなかった防災備蓄品を廃棄しなくても済むようにSDGsの取り組みを行っています。
企業防災の一環としてBCPを作成し、災害が発生した際に初動で発生する重要な対応が「社員とその家族の安全確保、安否確認等」です。
BCP初動対応の山場として多くの人手が割かれるのが、救護活動と安否確認です。安否確認対応をスムーズに行うことができるように事前準備をしておくことは、より早く事業復旧に取り掛かることができるということですから、BCPの中でも重要な対策です。
企業が従業員を雇用する際には、安全や衛星に関する様々な義務を順守することが法律で求められており、その中の一つが「安全配慮義務」です。災害発生時にも、企業は労働災害などが発生する可能性を事前に発見して適切な防止策を講じる必要があります。
具体例
・備品などが避難階段を塞ぎ、避難を妨げる状態になっていないか?
・ロッカーや書棚などの転倒で従業員が下敷きにならないように対策を講じているか?
多くの企業が従業員、さらに従業員の家族の安否を確認するシステムを構築しています。従業員数が多い場合には安否確認用のアプリを導入するのが便利です。安否確認用アプリなら、外出している従業員の所在確認も比較的簡単に実施することができます。
従業員数が少ない場合にはグループメッセージツールや、普段使用しているメールなどで簡易的に安否確認を行うこともできますが、「災害時には従業員自身が安否を会社に連絡する」ということをあらかじめルール化しておくことが重要です。
自社に生じるリスクとして多くの企業が認識し、業務への影響分析を行っているのが、以下のリスクです。
トラック輸送及び3PL(サードパーティ・ロジスティクス)を手がける同社は、 緊急時の企業の物流ニーズを担う「BCP物流事業」や、同社が組織した一般社団法人と「連携事業継続力強化計画」の認定を受けるなどの連携、そして、事業継続を担う人材育成を進めて来ました。
能登半島地震発生時には、一般社団法人会員企業との連携を生かし、物資輸送に大きく貢献しました。同一般社団法人は、災害時の自治体や企業の多様なニーズに対応するため、異業種企業や NPO 法人とも連携しています。
これらは、相手企業の事業継続のみならず、災害時に自社の食料調達に役立つものや、避難所の衛生管理・運営支援に貢献しています。
無料で資料請求 →阪神・淡路大震災をきっかけに中小企業同友会の製造部会が立ち上げた「共同受注・共同開発」の仕組みは、災害をきっかけに事業構造を変え、生き残りを図るダイナミックな発想と実行力がBC(事業継続)の戦略として先駆的です。
その後も同友会は中小企業のためのBCP連携講座を開催し、経営指針と連動したBCP策定サポートを行い、他県のエリアにある別の中小企業同友会と事業継続を応援しあう「お互い様 BC 連携」を構築しました。
グループ会社等と連携した工場の事業継続戦略として代替生産体制の構築に努めています。近年はサプライチェーン全体の事業継続力向上のために、BCP 啓発セミナーや実践講座も実施したことで、同工場が属するグループ会社全体の事業継続における代替戦略等の見直し、強化を図っています。
工場の社員の事業継続資格格取得推進や新入社員教育等の人財育成を熱心に行い、さらに、同工場の調達担当者による取引先企業の事業継続支援の取組みが行われ、これが「BCP バイヤー養成講座」に発展しました。
同工場の事業継続力強化の取り組みが、同工場のサプライチェーン、さらにはグループ会社全体の事業継続力強化につながっています。
タクシー・貸切バス等を営む同社は、平成 30 年 7 月豪雨(西日本豪雨)で被災し、多くの経営資源を失いながらも、経営者のリーダーシップにより新規投資と雇用継続を実現しました。
被災後は、新たに水害 BCP タイムライン作成や、電源対策(太陽光パネル、蓄電施設)等にも積極的に取り組み、同じ悲劇を繰り返さないために「語り継ぐ」ことを同社の使命とし、職場体験、SDGs 活動、講演も含め、国、自治体、企業等の地域防災および事業継続に貢献しており、風水害等の復旧・復興の好事例です。
7年前から事業継続の取り組みをスタートし、レジリエンス認証取得をはじめ、事業継続性の確保と企業のレジリエンス向上に努めています。
主要取引先および調達先とのサプライチェーンを意識したBCPを心掛け、代替性確保のための平常時の体制整備と、円滑な事業継続を可能にする明確な行動計画策定を行い、さらには取引先企業との合同 BCP 訓練の実施などの取組みを行っています。
新型コロナ初期において自社に感染者が発生した際に、自然災害用のBCP を感染症対応に読み替え、行政、取引先等との適切なコミュニケーションにより難局を乗り越えました。
保険会社としての社会的責任を果たすために、経営レベルの戦略的活動として BCM を実行し、「平常時」、「危機時」および「危機収束後」の各フェーズに備えた危機管理態勢を整備・確保しています。
危機への対応事例では、「新型コロナウイルス感染症問題に対する事業継続・変革計画」を同感染症拡大時に策定し、事業変革に向けた計画や業務執行態勢を明確化し、機動的な業務運営を実践しました。
また、能登半島地震では、発生当日の被害状況や業務影響等をリモートで確認するなど危機時の基本動作が定着していることが確認されました。
創業者の阪神・淡路大震災経験を契機として、南海トラフ巨大地震を想定した事業継続の取り組みを開始しました。社屋を安全な場所へ移転・集約し、在庫棚の転倒防止など被害抑制を行っています。
迅速な避難を可能とする BCP 対応行動手順を整備し、社員ひとりひとりに役割を決めた緊急時カードも配布しました。また、7年に渡り BCP 訓練やワークショップを実施し、全社一丸となって課題の抽出、問題解決のアクション整理を行っています。
最近では、代替生産を可能にする新たな拠点の確保にも取り組んでいます。さらに、これらの取り組みを、講演を通じて広く情報発信し、主要な取引先様との信用信頼を築いています。
<企業防災最新事例7選に関する参照記事>
【BCAOアワード2024 受賞者発表】 – 事業継続を推進する
企業防災備蓄品は、3日分が目安です。
東京都帰宅困難者対策条例では、災害発生後3日間(72時間)は帰宅などの移動を開始せず、職場にとどまるように推奨しています。東日本大震災発生時に見られた首都圏の混乱が再び起きないようにするための対策です。
首都圏以外の企業においても、従業員数×3日分の備蓄があれば安心でしょう。
首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の最終報告では、以下の通り企業等における施設内待機のための備蓄品の例を示しています
項目 | 基準 | 備考 |
---|---|---|
飲料水 | 1人1日3ℓ | 合計9ℓ(3日分) |
主食 | 1人1日3食 | 合計9食(3日分) |
保存食例 | アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺 | |
毛布・保温シート | 毛布またはそれに類する保温用具を準備 | |
簡易トイレ | 1人1日5回 | 合計15回(3日分) |
衛生用品 | |
---|---|
消毒液 | 手指や物品の消毒用 |
体拭きボディーシート | 入浴できない場合の身体清拭 |
タオル | 複数枚準備推奨 |
生理用品 | 個人の必要に応じた量を備蓄 |
カイロ | 寒さ対策、冬季に必須 |
救急医療薬品類 | 常備薬、絆創膏、消毒薬など |
その他 | |
---|---|
懐中電灯/ランタン | 停電時の照明確保 |
乾電池 | 照明・ラジオ・機器用に多めに備蓄 |
事業者が備える物資(例) | |
---|---|
非常用発電機 | 停電時の電源確保 |
燃料(※) | 発電機や車両などに用いる |
工具類 | 簡易修理や作業に使用 |
調理器具 | 携帯用ガスコンロ、鍋など |
副食 | 缶詰など保存食 |
ヘルメット | 落下物から頭部を保護 |
軍手 | 作業や避難時に活用 |
自転車 | 交通手段の代替として |
地図 | 通信不能時の移動用 |
従業員に推奨する個人の備蓄品(例) | |
---|---|
非常用食品 | アルファ化米、レトルト食品など |
ペットボトル入り飲料水 | 最低3日分を目安に備蓄 |
運動靴 | 足元の安全性確保 |
常備薬 | 個人の健康状態に合わせて |
携帯電話用電源 | モバイルバッテリー等 |
携帯ラジオ | 情報収集のため |
高層ビルに所在する企業においては、エレベーターが停止した場合に備え、備蓄品の保管場所を分散させておくことが重要です。
また、配布作業の軽減や従業員の防災意識向上の視点から、事前に備蓄品を従業員へ配布しておくことも検討しましょう。
なお、保管されている備蓄品が避難通路をふさぐ障害物となり、消防法令などの違反状態(スプリンクラー設備の放水ヘッドをふさがないこと等)にならないよう、注意が必要です。
関連記事:BCP対策において備蓄品リストを整備する重要性と準備すべきもの
企業防災とBCPの違いや、企業防災に取り組むメリットを解説し、最新事例7選を紹介しました。企業防災に取り組むことは、自社の事業継続力を強化し、企業が直面するあらゆる危機事象にも左右されず、安定した経営基盤を構築することにつながります。
企業防災取り組みチェックリストで自社の企業防災・事業継続力の現状把握を行ったことで、どんな企業防災に取り組むべきか、イメージできたでしょうか?
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