医療機関は、大規模災害発生時に被災者を受け入れる役割を担っているため、万が一の災害に備えた対策が求められます。その対策として注目したいのが、BCPです。
BCP対策について理解が不十分な場合は、基本的な考え方から整理し、段階的に対応方針を定めることが重要です。
ここではBCP対策を検討している方のため、BCPの基本や検討すべき要素、どのように対応していけば良いのかなどを解説するので、ぜひ参考にしてください。BCPを策定するうえでのポイントもわかるようになります。
企業は、災害、事故、感染症、その他の事象による被害を受けても、取引先等の利害関係者や社会から、重要業務が中断しないこと、中断してもできるだけ短い期間で再開することが望まれています。この実現を目指す計画が、「事業継続計画」(BCP:Bushiness Continuity Plan)です。このBCPによって「顧客の他社への流出」、「マーケットシェアの低下」、「利益や売り上げの低下」、「企業の評価の低下」等の問題をまぬがれようとするのです。
防災計画と重複している部分もありますが、防災計画では被害を回避したり抑えたりすることに重点を置いているのに対し、BCPは災害下においても事業を継続するための体制整備を主眼とした計画です。
医療機関は人命を守る役割を持っており、災害が発生しても継続的に医療サービスを提供することが求められます。そのため、災害拠点病院など一部の医療機関ではBCP策定が義務化されており、その他の医療機関についてもBCPの策定が厚生労働省等から強く推奨されています。
BCPにおいて検討すべき要素は、事業の内容によって異なってきます。医療機関では以下のようなことを検討しておきましょう。
医療機関がBCP対策をするうえで注意しておかなければならないのが、災害発生後は平時と比較して多くの医療需要が発生するということです。
大規模災害によって負傷者が多数搬送される事態が想定されます。
災害発生後の厳しい状況下でも、可能な限り医療提供を継続できるよう体制を整えておく必要があります。特に災害発生後24~72時間は医療需要が増加する可能性があるため、その対応を想定した準備が求められます。
医療機関におけるインフラ対策は、一般企業のBCPと基本的な構成は共通しています。
ただし、医療機関では停止するわけにはいかない医療機器があるほか、手術時などにも電源の確保が必要です。非常電源に関するポイントはよく確認しておきましょう。
また、衛生的な環境を維持するためにも非常用給水設備が求められます。加えて、通信手段の確保や施設の耐震性能強化などの対応も重要です。
必要なインフラが確保できなければ医療行為に大きな影響が出るので、行政機関への給水車・電源車の派遣要請についても、手順をあらかじめ確認・整理しておくとともに、自治体と平時からの連携体制を構築しておくことが重要です。
医療分野におけるBCP対策では、ライフラインの復旧時期を想定し、それに応じた備えを講じる必要があります。
たとえば、電源の復旧に7日程度を要する場合には、それに対応した非常用電源設備の確保が必要です。
災害時にどの程度でライフラインが復旧するかは災害の規模によって変わってきますが、あらかじめ自治体やライフラインの供給業者に相談しておくと判断しやすくなるでしょう。
災害発生後は、ライフラインの復旧状況を把握するための情報収集手段を確保しておく必要があります。
災害発生時は医療需要が急増することもあり、出勤可能なスタッフを早急に招集しなければなりません。電話だけではなく、メールやSNSなど複数の連絡手段を用意しておきましょう。
災害後はさまざまな部分で人手が不足するので、人員を迅速に確保する体制を整えることが欠かせません。
非常時にどのような業務を優先させるかはあらかじめ考えておく必要があります。普段行っている業務内容を洗い出し、その中から緊急時でも継続しなければならないもの、停止して問題ないものを考えておきましょう。
実際に災害などが起こってから判断するのは難しいので、平常時に冷静な判断のもと、業務の優先順位を整理しておくことが求められます。
非常時における指揮命令系統の構築方法について、あらかじめ検討しておく必要があります。BCPを策定する際は、ある程度の権限や責任を持った人が指示を出すことになりますが、担当者が不在である可能性も考えておかなければなりません。
各部門のリーダーについて決めている医療機関も多いですが、こちらも同様にリーダーが不在だったり、連絡がつかなくなったりする可能性も考えておきましょう。
迅速な対応が必要になるので、スタッフ一人ひとりの自己判断が求められるシーンもあります。ただし、何かトラブルが起こった際の責任問題もあるので、自己判断の範囲についても、事前に基準を明確化しておく必要があるでしょう。
決定内容は、全スタッフが理解・共有できるよう明確に周知する必要もあります。
実際に医療機関ではどういったことに注目してBCPを策定していけば良いのでしょうか。ここでは、BCPを策定するにあたり、行っておくべきことを解説します。
実際に災害が起こった際にどのような被害が想定されるのか、できる限り具体的に被害を想定し、事前に整理しておくことが求められます。直接的な被害だけではなく、幅広い被害を想定しておくことが重要です。
たとえば、東日本大震災が発生した際、一部の医療機関は計画停電の対象に含まれました。停電中は使用できない医療機器があります。そのため予定していた手術をキャンセルしなければならない病院も多くありました。
予測できない災害もありますが、たとえば地震については過去の地震からある程度起こりうる被害を想定可能です。
ハザードマップなどの情報を参照し、地域ごとの災害リスクを整理しておき、想定される被害を検討しておきましょう。
また、発生しうる災害について場合分けをし過ぎるとBCP策定が進まないことがあります。発生しうる危機事象をざっと洗い出したら、その災害によってどのような経営資源が不足し、社会的にどのような対応が求められるのかを検討することに力を入れましょう。
あらかじめ災害時を想定し、それに対応できる体制を整備しておきましょう。権限のある人物を責任者として選び、各部門からそれぞれの部門の指揮をとるメンバーを選出していきます。
また、災害時にはどのような形で人員を配置していくのか、勤務体制をどのように設計するかについても事前に検討しておくことが重要です。
ヘリコプターを利用する場合などは、あらかじめ連携体制を構築しておかなければなりません。
平常時の業務体制を把握しておくことも欠かせません。たとえば、現在どの時間に何人スタッフが働いているのか把握しておくことにより、災害が発生した場合にすぐ動ける人が見えてきます。
また、大規模な災害が発生した際は次々と患者が訪れたり、救急からの受け入れ要請が来たりすることでしょう。
しかし、対応可能な人数しか受け入れができないため、現状の設備などを確認して受け入れ可能な人数を事前に見積もっておく必要があります。
災害が発生した際にどのような業務に取り組んでいくのか決定しておきます。普段とは状況が異なるので、通常通りに業務を継続していくことはできません。
災害時でも必要な業務を洗い出したら、そのために必要な人員や資源、復旧の目標なども検討していきます。
緊急対応が不要な業務についても整理しておけば、どういった業務から手をつけていけば良いかが見えてくるはずです。
医療機関がBCPを策定する際は、非常時の組織体制の構築と、災害時対応の優先順位の設定という二つの観点を押さえる必要があります。それぞれ解説します。
非常時は、普段とは異なる組織体制で対応していくことが求められるケースもあります。
たとえば、BCPの責任者は一般的に病院長であり、基本的な指示を出すのも病院長です。しかし、災害が起こったタイミングで必ずしも病院長が院内にいるとは限りません。
こういったことも想定し、病院長の代わりに誰が指揮をとるのかBCP対策で定めておきましょう。
また、一人の責任者がすべての部署に指示を出す形では、迅速に対応できません。復旧対応チームや外部対応機能チームなど、編成されたチームリーダーに対して指示を出し、チーム内の指示はチームリーダーが行う形が望まれます。このあたりも検討しておきましょう。
災害時に行う対応は、あらかじめ優先順位をつけておくことが重要です。大規模な災害発生時は従業員すべてが普段と同様の業務につけるわけではありません。
制限された人員で対応していかなければならないことも考えられます。
このようなケースでどの業務への対応を優先すべきか検討しておきましょう。実際に災害が発生してからやるべきことを冷静に判断するのはなかなか難しいことです。事前に判断・決定しておくことが求められます。
また、策定したBCPは、定期的な訓練を通じて運用体制を確認し、問題点を洗い出して改善することが重要です。毎年の見直しや実地訓練の実施を通じて、計画の実効性を高めていきましょう。
BCPとは何か、医療機関ではどういった対応が必要かについて解説しました。基本的なポイントや、BCP策定時に意識したいことなどもご理解いただけたでしょう。
災害発生時は医療機関も被災することになりますが、医療機関には、被災者を支援するという重要な責務も課されています。そのため、BCP対策には十分な準備と対応体制を整備しておくことが求められます。
災害時に必要な医薬品や医療材料の備蓄、さらには水・食料の確保も必要です。ただし、これらの自社管理が難しいケースもあるでしょう。株式会社丸和運輸機関では、備蓄品の管理や保管も含めた防災備蓄管理ワンストップサービスを提供しているので、ぜひご相談ください。